【第97回】国産キャブコンの可能性を高めたノーブルシート


国産キャンピングカー、モーターホームの主流はカムロードをベースにしたモデルといって間違いはない。カムロードはキャンピングカー専用シャシーだけありその利点は数知れないが、普通に作るとどうしても煮詰めきれない部分があった。

その1つが、運転席直後のキャブ段差部分のスペースを有効に活かしきれないこと。さらに、構造的にキャンプ中にフロントシート部分のスペースもうまく利用できないということも起こってしまっていた。

そういった問題を解決するために編み出されたのがノーブルシートで、走行時には折りたたんでコンパクトなシートになり、キャンプ中にはフロントシートを前に倒すことによって出来るスペースに前方スライド、足元も広々としたリクライニングソファとして利用できるようにした。

もちろんそれら操作は、キャンピングシェル側からすべて簡単に行なえるようフロントシートリクライニングレバーを拡張し、バンク下に新たなケーブルが増設されているので、たとえ雨の日であっても外に出る必要もなく濡れることなくシートアレンジを完了することができる。

またこのセカンドシートになる部分は、フロントシート側からも折りたたみ作業ができるように設計されているので、移動するときにサッと片付けることもでき、キャンプ・運転時での利用のしやすさに十分配慮されているのである。

極論を言えばこの機能は、限られたキャブコンのスペースを最大限有効活用させる、とにかくリヤに位置する固定ベッドを広く保ちたいというレイアウト上の目的から生み出されたアイデア。おかげで、寝心地の良いクイーンサイズのベッドが設けられたわけだが、ベッドマットをわざわざ縦方向にセパレート化し横に寝ている人の寝返りの影響が出なくしたり、徹底的に寝心地にこだわったスプリング機構を組み込んでいるのも、ノーブルがこだわりを見せている部分でもあるのだ。

そして注目すべき点は、バンクベッドとの位置関係である。通常バンクベッドは就寝定員を確保するという点から、キャンピングシェル後方側へグッと延長させ利用する機構が取られることが多い。しかしノーブルの場合はすでにリヤに広大な就寝スペースがあるためそういったことをあえて行なう必要が少ない。

結果として、バンクベッドで誰かが就寝中であっても、前方にスライドし設置したノーブルシートで普通に座ってくつろげるヘッドクリアランスが確保されている。この使い勝手は少し長めのキャンプをすると有り難さを実感すると思う。なにしろ、ベッド状態のままのバンクベッドであっても手間なくそのまま移動もできるしくつろぐこともできるのだから。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第69回】運転のしやすさを取り入れる


誰しも、初めてキャブコンを目の当たりにすると「こんな大きな車を運転できるだろうか?」と思うようだ。確かに幅は2m、長さは5mを超え、高さはほぼ3mともなれば、そう思っても仕方がない。ただ実際には、少し運転するとその心配は不必要であることに気づく。

正直いえば、確かに大きさそのものの問題は存在する。しかしそれを一般的な運転においてデメリットとならないような工夫がキャブコンには組み込まれているのだ。

キャブコンの場合、基本的な車高が高く装備品も車両位置の高い部分に取り付けられるものが多く、基本的に乗用車などと比較すると重心の縦横位置割合が高くなる。端的にいえば、前後左右揺れを起こしやすい状態である。

これを解消するため、できるだけ前後左右中心部に重心が集まるようレイアウトや装備の配置が設計から組み込まれる。特に、一度設置すると動かすことがないバッテリーやエアコン、室外機は重量物であり慎重にその位置関係が設定される。

さらに実際の運行で体感するのが、水の重さ、しかもその使用状況によって運転感覚にまで影響するという事実。質量的に大きな要素であるのでその設置場所による重心位置の変化は、運転においてかなり重要な要素になっている。

バンテック車両の場合、使用前の清水はポリタンクを利用し、キャブコンのフロア上に設置されている。飲まない限り、排水量は使用量とほぼ同じなので重量の変化もほとんどないと考えていい。

そこでコルドリーブスなどでは、燃料タンクとアンダースカートの間のすき間に50リットルほどの特設タンクを設け、排水した重量を車両中央下部へ移動させ重心位置をより低い位置へ移動する対策が取られている。

こういった徹底した低重心化がもたらすものは、ピッチやロールといった揺れが減少し、安定した挙動で走行できることであり、乗り心地が向上し安全性が増すということである。

キャブコンの大きさからくる運転への不安は、「死角が広く見えないのでは?」ということもある。端的にいえば、直接目視しようにもガラスエリアが狭く壁だらけなのでそれは当然の理由である。しかし現代では最新機材が揃っていて、その不安はかなり払拭されていると言える。

まず運転席からの前方視界だが、キャブコンに使われることの多いカムロードでは、フロント下部を目視できる補助ミラーを併用すると、死角はほぼ無いと言っていい。後方確認においては、かなり前からリヤビューカメラが当たり前になっているうえ、全方向を見れるアラウンドビューシステムも普通に組み込めるようになってきたので、駐車やサイトへの乗り入れも安心になってきている。

ただ乗用車でも同じなのだが、合流車線などでの確認に必要な斜め後方の視界に関しては、車そのもの運転する位置も含め車そのものの問題で万全とは言いにくい。このような不具合を感じた場合は、ミラーの増設やその他いろいろ方法があるので対処はそれほど難しくないと思われる。

大きさは、「家のそばの道を走れるだろうか?」という疑問もあるかと思われる。これについて断言できるのは、キャブコンの場合1ボックスキャンピングカーのベースに使われることの多いハイエーススーパーロングよりはるかに小回りが効くということ。さらに、キャブコンより全長の短いおおかたのミニバンよりも小回りが効くことも記しておいたほうがいいだろう。

往復2車線の4m道路ならなんら問題ないし、狭い路地に2tの配送トラックが入ってくるのも当たり前の光景だが、それ同等の小回り性は有していて日常で困ることはほとんどないはずだ。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第65回】すっかり定着してきた新型カムロードのおさらい


キャブコンのベース車両といえば、最有力なのがカムロードであることは周知の事実。実際、バンテックが製作する各モデルのほとんどがそれを採用している。’16年秋にそのベース車両がマイナーチェンジ以上のフルチェンジを行なったのだが、世の中にまだ普及が始まったばかりなのでその詳細を知る人は少ないのではないだろうか。

バンテック製キャンピングカー ZiL(ジル)バンテック製キャンピングカー ZiL(ジル)

誰しもが気づく大きな変更点はフロントマスクが変わったこと。細かく見てみると、プレスラインをうまく変更したりしているのだが、その印象はガラッと変化した。エンジンや足回りには変更が見られないが、これまでダイナトラック特設項目であったリヤダブルタイヤのナローボディ2形式が装備類もカムロードとして新たに加わった。

外観では、4WDマークは廃止され、エンブレムのフロントステッカーは貼られていない状態で出荷される。バンテック車両においては、統一の貼付位置を右上と決めたようである。これまで黒い帯状のものが存在していたものが消えメッキパーツが豊富になったこともあり、キャンピングシェルを搭載したときの雰囲気からトラックっぽさがかなりなくなり、あか抜けたイメージになったといえそうだ。

バンテック製キャンピングカー ZiL(ジル)バンテック製キャンピングカー ZiL(ジル)

バンパーの変更で、ボディラインから左右に張り出ていたエンド部分のチリが合わされた事により、キャブ周りのまとまり感が断然良くなったことが、細かいところであるが意外と重要かも知れない。乗用車的になったのだ。

バンテック製キャンピングカー ZiL(ジル)

運転席周りは一新している。ダッシュボード周りの張り出しが少なくなり、心なしかレッグスペースの拡大も見られるよう。またダッシュボード周りに収納量が増えたので、実用で色々助かるのではないだろうか。なかなか気付き難い所では、どうやらフロントウインドウやサイドウインドウがよりUV効果が強いものに変更になったようで、外から見るとこれまでよりだいぶ緑色に見える。運転中の光線が入り込むのが減少すれば長時間運転での目の疲労も軽減するし、エアコンの効きにも直接影響があるのでより快適になったと言える。

バンテック製キャンピングカー ZiL(ジル)

最も嬉しいのは助手席周りかも知れない。まず、運転席共々カップホルダーがダッシュボードに埋め込まれたことが大きい。また、テーブルとして使えるフラットで大きめな収納スペースが用意されたので、移動中の快適度が高まったのは間違いない。トラックベースだとどうしても助手席側がおざなりになる傾向があるので、こういった快適度が高まった変更は同乗者にとって嬉しいに違いない。

ガソリンエンジン車の最終減速比が変更になり燃費への影響がどう出るかは未知数だが、大容量オルタネーターや燃料タンクはそのまま継続。熟成度をさらに高め、これからのキャブコン市場をけん引していくのに十分の内容に昇華したと思える。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第19回】’98年に決定的な定番モデルとなったZiL


1998年になるまで国産キャブコンは専用シャシーがなく、各ビルダーが思い思いのベース車両に架装していた。一方欧米では、キャンピングカーやモーターホームに架装するための専用ベース車両が多数用意され、日本のトラックベースと比較すると走行性能や乗り心地の点で大きく水を開けられていた。

その状況を打開するため、国産のキャンピングカー専用シャシーの登場が切望されていたが、当時の国産コーチビルドによる製造台数の少なさから、なかなか自動車メーカーが手を出さない状況。ジルはそんななか、シャシーメーカーと同時進行で開発されたモーターホームであり、走行テストなども行われて登場した。

シャシー自体はダイナトラックであるが、内容的にはキャンピングカー専用に用意されたもので、このモデルが各キャンピングカービルダーに供給される段になってカムロードという名称が与えられている。主な変更点は足回り、ボディサイズに対応するトレッド幅などである。

Zilダイナベース2

室内レイアウトは右側ソファで、現在のジルに続くバンテックのオリジナル。ボディサイズアップとなった現行でもこのレイアウトが続いているだけあり、まさにド定番中の定番だ。ちなみに当時はこういったシート生地が、世界的にはやっていたのが懐かしい。

実際に走った感じでは、標準幅とワイドトレッドでコーナーリングの安定性というか、ボディの傾きに差が出ていたのが印象的ではあった。

Zilダイナベース3

ジル以前の各社キャブコンのバンクベッドは折り畳み式が多かったが、ジルではスライド量を確保したことにより大人3名が寝られるサイズになったのが驚異的だった。フロアの長いソファをベッド状態にセットし、掘りごたつ状態にしておけばそれだけで家族で普通に就寝できるくらいだ。

Zilダイナベース4

トイレ&シャワールームに大型バゲッジドアを付け、雨の日の濡れモノ収納が楽になった。流石にこの辺りは、欧州のライモから各種パーツを直接輸入販売しているバンテックならではの装備であり面目躍如といったところ。

こうしてみてみると、装備や大きさレイアウトなど今の国産モデルのほとんどにそのコンセプトが引き継がれているのが分かり、この時から本当の国産キャブコン定番モデルが確立したのだと理解できる。 

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com