車内レイアウトのバリエーションが豊富で人気の高かったアトムがどうして現在シリーズから消えているのか? それはひとえに車両重量の問題である。いわゆる耐荷重の問題だ。2駆はまだしも4駆となるとかなり厳しい数字になり、オプション装備装着もままならない状況になっていた。そもそもこの手のモデルは4駆を選択するユーザーが多かったということもある。
タウンエースベースの初代アトムが’00年に登場し、翌年にはヒュンダイSRXをベースにした耐荷重に余裕のあるパワフルモデルが登場。’03年にはバンク形状を大幅に変更した通称405というモデルが登場した。’07年にFRP一体成型の406、矢継ぎ早に407へと変更がされ、同年中に一番最初の写真であるバネットをベースにした新型の307が登場する。
このなかではヒュンダイSRXというリヤダブルタイヤのトラックが異彩を放っているが、それは当時バンテックが車両そのものの国内代理店として取り扱いを始めたからだ。余裕のあるベース車両、フロントエンジン、ウォークスルーモデルへの憧れもあったと思われるが、このモデルはある意味で三菱自動車のパジェロをトラックモデルに仕立て直したような感じだ。
パワーのあるディーゼルターボエンジンであり、さらにシャシーも余裕いっぱいだったので、アトムのキャンピングシェルを架装していても軽快に走行でき、ロングドライブでも疲れ知らずだったことを覚えている。
最終型の307が登場したとき、それまでの定番的レイアウトを採用したモデルとは全くコンセプトが異なったモデルが登場。それが307Rである。これまでマルチルームを用意するのが常だったキャンピングカーの室内レイアウトを一変させた。
室内は兄貴分のジル同様のレイアウトを持たせる。すると車両容積の関係からマルチルームを省かなければ実現できない。しかしその装備はキャンピングカーとして捨てがたいというジレンマを抱える。
しかしちょうどこの時期から“トイレやシャワーはいらない”という新しいニーズを持ったユーザー層が登場してきた。
実際、現在でもトイレやシャワーのないとにかく室内が広々としているモデルは一定の人気がある。広いスペースでしっかり寝られる便利なミニバンとでも言えばいいのだろうか。
ただしフルサイズのミニバンでも満たされない広々とした室内空間が307Rにはあった。立って歩ける室内高も重要だ。そう言ったニーズを満たすにはピッタリの全長全幅であるうえに、トイレ&シャワールームはなくしたものの伸縮するワードローブを設置した。
このワードローブのおかげで、必要とあらばポータブルトイレ設置によりトイレルームとして利用できるようになり、いわゆるキャンピングカー、旅車として使いたいユーザー層にもアピールでき、前出のジレンマも解消したのである。
伸ばした状態をトイレルームとしても、ダイネットとソファ周りをフルフラットベッド展開で利用できる点もよく考えられたレイアウトであった。
そんな307Rは’12年まで発売されたが、ベース車両がマイナーチェンジした折にラインナップから外れてしまった。しかしメーカー的にはラインナップの中でポッカリ空いてしまっているサイズであり、ユーザー的にもリーズナブルで利便性の高いクラスである。
現在、同サイズのベースシャシーであるマツダ・ボンゴトラックを使ったモデルが計画進行中のようだ。アトムの血を受け継ぐニューモデルの登場は、多くのユーザー層が待ち望んでいることでもあり、そう遠くになることはないはずだ。