【第69回】運転のしやすさを取り入れる


誰しも、初めてキャブコンを目の当たりにすると「こんな大きな車を運転できるだろうか?」と思うようだ。確かに幅は2m、長さは5mを超え、高さはほぼ3mともなれば、そう思っても仕方がない。ただ実際には、少し運転するとその心配は不必要であることに気づく。

正直いえば、確かに大きさそのものの問題は存在する。しかしそれを一般的な運転においてデメリットとならないような工夫がキャブコンには組み込まれているのだ。

キャブコンの場合、基本的な車高が高く装備品も車両位置の高い部分に取り付けられるものが多く、基本的に乗用車などと比較すると重心の縦横位置割合が高くなる。端的にいえば、前後左右揺れを起こしやすい状態である。

これを解消するため、できるだけ前後左右中心部に重心が集まるようレイアウトや装備の配置が設計から組み込まれる。特に、一度設置すると動かすことがないバッテリーやエアコン、室外機は重量物であり慎重にその位置関係が設定される。

さらに実際の運行で体感するのが、水の重さ、しかもその使用状況によって運転感覚にまで影響するという事実。質量的に大きな要素であるのでその設置場所による重心位置の変化は、運転においてかなり重要な要素になっている。

バンテック車両の場合、使用前の清水はポリタンクを利用し、キャブコンのフロア上に設置されている。飲まない限り、排水量は使用量とほぼ同じなので重量の変化もほとんどないと考えていい。

そこでコルドリーブスなどでは、燃料タンクとアンダースカートの間のすき間に50リットルほどの特設タンクを設け、排水した重量を車両中央下部へ移動させ重心位置をより低い位置へ移動する対策が取られている。

こういった徹底した低重心化がもたらすものは、ピッチやロールといった揺れが減少し、安定した挙動で走行できることであり、乗り心地が向上し安全性が増すということである。

キャブコンの大きさからくる運転への不安は、「死角が広く見えないのでは?」ということもある。端的にいえば、直接目視しようにもガラスエリアが狭く壁だらけなのでそれは当然の理由である。しかし現代では最新機材が揃っていて、その不安はかなり払拭されていると言える。

まず運転席からの前方視界だが、キャブコンに使われることの多いカムロードでは、フロント下部を目視できる補助ミラーを併用すると、死角はほぼ無いと言っていい。後方確認においては、かなり前からリヤビューカメラが当たり前になっているうえ、全方向を見れるアラウンドビューシステムも普通に組み込めるようになってきたので、駐車やサイトへの乗り入れも安心になってきている。

ただ乗用車でも同じなのだが、合流車線などでの確認に必要な斜め後方の視界に関しては、車そのもの運転する位置も含め車そのものの問題で万全とは言いにくい。このような不具合を感じた場合は、ミラーの増設やその他いろいろ方法があるので対処はそれほど難しくないと思われる。

大きさは、「家のそばの道を走れるだろうか?」という疑問もあるかと思われる。これについて断言できるのは、キャブコンの場合1ボックスキャンピングカーのベースに使われることの多いハイエーススーパーロングよりはるかに小回りが効くということ。さらに、キャブコンより全長の短いおおかたのミニバンよりも小回りが効くことも記しておいたほうがいいだろう。

往復2車線の4m道路ならなんら問題ないし、狭い路地に2tの配送トラックが入ってくるのも当たり前の光景だが、それ同等の小回り性は有していて日常で困ることはほとんどないはずだ。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第61回】新しい日本のキャブコンレイアウト提案をしたジル・ノーブル


それまでキャブコンといえば2×5mのボディ寸法が定番だった。その理由として月極駐車場に入るサイズ、フェリーなどの乗船料金などがあげられていたが、本来のキャンピングカーとしての使い勝手に注目しコンセプトを再構築した。それは2年ほど前にさかのぼる。

新たなコンセプトは、さらなる快適で広い就寝スペースの確保とダイネットの構築による搭乗人数の確保である。そのままではこれらを満たすのは無理で、ベースになるカムロードを利用し最大となる5.2m全長を採用することに決定。その後登場するモデルは、基本的にこのサイズが基準になっている。

バンテック製キャンピングカー ZiL Noble(ジルノーブル) バンテック製キャンピングカー ZiL Noble(ジルノーブル)

何はともあれ、コンセプトを完遂するにはスペースを創出しなければならない。そこで目をつけたのが、キャブとシェルの段差部。通常ここは15cmほどあまり利用されない状態で放置されていることがほとんど。実際には、カムロードではリクライニング可能なスペースとなっている。

このスペースを有効活用し、スライドする新しい台座を設計しそこへシートを設置することで、ダイネットを形成することを可能にしたのだ。それらスライド操作などを行なうときフロントシート背もたれも操作する必要があるが、シェル側からそれができるようにするためのケーブルが増設され、簡単に作業できるよう工夫されている。

バンテック製キャンピングカー ZiL Noble(ジルノーブル) バンテック製キャンピングカー ZiL Noble(ジルノーブル)

ダイネットが全体で20cmほど前方へ移動、それとともに後方が20cm拡大したことにより、最後部にダブルベッドを設置することができた。狭さを感じずにすむ2段ベッドではなく、3段階にスプリングの反発力を調節できるマットを入れ、寝る方向で2つに分割されているおかげで、隣で寝ている人の寝返りが直接伝わらないようにも工夫した。

さらに、上段がない分少しマットの高さを上げ下部外部収納庫スペースを大幅拡大。セパレートエアコンの室外機も問題なく収納できるようにし、昇降性を確保するため、格納式スライドステップを用意し、移動時の安全性も確保した。

バンテック製キャンピングカー ZiL Noble(ジルノーブル)

その就寝スペースには、今やバンテック車には当たり前になりつつあるセパレートエアコンの室内機が装備され、サブバッテリーで4時間程度は駆動できるように。もちろん出力的に、フロントのバンクベッドの空間まで調節できる能力があるが、例えばこのリヤ空間だけをカーテンで仕切って空間容積を減少させれば、その運用エネルギーは減少しサブバッテリーへの負担も激的に軽減させることができるだろう。

装備類はジル・シリーズ同様のフル装備状態で、それら使い勝手は変わらないし最新型パーツの恩恵を感受できる。ただ実際には2人で利用することがほとんどというユーザー層には、ファミリーにも余裕で対応できるこの新しいコンセプトによるレイアウトは、まだ一般的にはあまり浸透していないもののかなり魅力的に映るのではないだろうか。

ショーなどで普通の2段ベッド仕様などと比較することができる場合、可能ならばこのリヤベッドに少し横になってみることを勧める。たったそれだけで、レイアウトの持つコンセプトが理解できるはずだから。

バンテック製キャンピングカー ZiL Noble(ジルノーブル)詳細ページ

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第43回】2004年 バンテックの看板モデル 4世代目のフルチェンジ


'04年、バンテックの定番モデルであるジルがフルモデルチェンジし、新しいキャンピングシェルデザインになった。このデザインは、その後登場するバンテック製キャブコンの統一イメージともいえる感じになった。

バンテック キャンピングカー ZiL4

室内は、新しい家具の作り方を採用してはいるものの、レイアウトは初代から続くコンセプトを継承。左ダイネット空間と大きなラウンジは広々とした室内を演出している。今思えば、全長5mに収めた最後のモデルとなるが、使いやすさも含め秀逸であることを実感する。

バンテック キャンピングカー ZiL4

装備については、ジルらしくフル装備。トイレや温水シャワーまである。初代ジルが登場したとき、“幕の内弁当”のような装備とよく言われていたが、それは最初からすべてを備えた過不足のないものという意味で使われていた。

バンテック キャンピングカー ZiL4

現代のモデルと違うのが、ダイネットを形成するセカンドシート下。当時は左右貫通式の外部収納庫として利用でき、フロア下のサイドストレージボックスと合わせ圧倒的な収納力をウリにしていた。

現在では、このスペースには重量のあるサブバッテリー×3本などが積載されている。もちろん車全体の重量配分を考えた結果の配置だが、当時のキャンピングカーでは現代ほど電気への依存が高くなかった。というより、エンジン停止中にセパレートエアコンを動かすといったようなシチュエーションが想像すらされていなかったのである。

バンテック キャンピングカー ZiL4

リヤには、メインフレーム間の空間を利用したスライドストレージや、発電機収納ボックスを設置するなど新しいアプローチがみられ、現代ではあまりに当たり前の装備になっている。

この4代目のジル以後、ジルをベースにさまざまなトライモデルがメーカー内で進行する。そこで生まれた技術は実験検証を終えた上で続々と商品化。新たなモデルが登場するきっかけになっていく。

そしてこのモデルそのものが完成していたことは、10年以上経過した現在の感覚で見てもまったく古びていないことからも十分確認できるのだ。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第23回】パワーと余裕を求めエルフベースの快走モデル登場


カムロードが登場し、それをベースにしたジルも大人気モデルとなったが、当時のカムロードはノンターボのディーゼルエンジンであり、登坂車線を走らざるをえないこともままあった。走りという意味ではかなりストレスが溜まっていたのかも知れない。そんな不満を晴らすように’99年には許容架重重量が大きないすゞ・エルフをベースにしたクルーズが登場した。

バンテック キャンピングカー ジルクルーズ 外観

リヤダブルタイヤによる架重に対する余裕があり、キャンプグッズを満載してもへこたれない。重量物となる水を満載していても、不整路面をものともしないのには驚かされた。パワーがあるので乗り心地と走破性のどちらを優先するかが悩ましい時代に突入したのを覚えている。

現行モデルにもジルクルーズは存在するが、ベースになっている520の前後左右バランスがよく、スムーズな走りはそのままに、さらにパワフルでしっかりした車体感を持つモデルに昇華され、乗り心地といった面でもかなり改善されたように思える。

バンテック キャンピングカー ジルクルーズ 内装

室内はジル同様、引き出して広々使える巨大なバンクベッドを持ち、右サイドソファというレイアウトもそのまま継承。装備的にも大きな違いはなく、車体そのものに余裕ができた分、オプションなどで重量を気にせず装着できるといったメリットが際立った。

バンテック キャンピングカー ジルクルーズ 外観

ダイネット空間は、ジル同様全面ベッド展開が可能。マットの境目のフラット感も高く、バンクと合わせると余裕で大家族に対応できた。対面ダイネットを展開せず、掘りごたつ状態で利用するのがユーザー層に定着したのもこの頃である。

バンテック キャンピングカー ジルクルーズ 内装

天井を見てみると、現行にも続く曲線を取り込んだ意匠が見て取れる。まだ間接照明や、LEDライトは未装備。今だと当たり前のように装着される高性能ルーフベンチレーターがダイネット上部にないあたりに、価格と快適性をユーザー側が計りかねているのを感じる。

現代では、ベンチレーターはおろかセパレートエアコンを装備するのがこのクラスでは当たり前になってきて、時代差を感じる。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第19回】’98年に決定的な定番モデルとなったZiL


1998年になるまで国産キャブコンは専用シャシーがなく、各ビルダーが思い思いのベース車両に架装していた。一方欧米では、キャンピングカーやモーターホームに架装するための専用ベース車両が多数用意され、日本のトラックベースと比較すると走行性能や乗り心地の点で大きく水を開けられていた。

その状況を打開するため、国産のキャンピングカー専用シャシーの登場が切望されていたが、当時の国産コーチビルドによる製造台数の少なさから、なかなか自動車メーカーが手を出さない状況。ジルはそんななか、シャシーメーカーと同時進行で開発されたモーターホームであり、走行テストなども行われて登場した。

シャシー自体はダイナトラックであるが、内容的にはキャンピングカー専用に用意されたもので、このモデルが各キャンピングカービルダーに供給される段になってカムロードという名称が与えられている。主な変更点は足回り、ボディサイズに対応するトレッド幅などである。

Zilダイナベース2

室内レイアウトは右側ソファで、現在のジルに続くバンテックのオリジナル。ボディサイズアップとなった現行でもこのレイアウトが続いているだけあり、まさにド定番中の定番だ。ちなみに当時はこういったシート生地が、世界的にはやっていたのが懐かしい。

実際に走った感じでは、標準幅とワイドトレッドでコーナーリングの安定性というか、ボディの傾きに差が出ていたのが印象的ではあった。

Zilダイナベース3

ジル以前の各社キャブコンのバンクベッドは折り畳み式が多かったが、ジルではスライド量を確保したことにより大人3名が寝られるサイズになったのが驚異的だった。フロアの長いソファをベッド状態にセットし、掘りごたつ状態にしておけばそれだけで家族で普通に就寝できるくらいだ。

Zilダイナベース4

トイレ&シャワールームに大型バゲッジドアを付け、雨の日の濡れモノ収納が楽になった。流石にこの辺りは、欧州のライモから各種パーツを直接輸入販売しているバンテックならではの装備であり面目躍如といったところ。

こうしてみてみると、装備や大きさレイアウトなど今の国産モデルのほとんどにそのコンセプトが引き継がれているのが分かり、この時から本当の国産キャブコン定番モデルが確立したのだと理解できる。 

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著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com