【第39回】フラッグシップモデルを目指した新型ベガ


キャンピングカービルダーの先進国である欧米に、追い着け追い越せという気概を持っているのが分かるのが、大型モーターホームの開発を常に続けていることだ。それはいわゆる“売れ線”ではなく、持てる技術力をフル活用した意欲作とでも言えばいいだろうか。

’05年に新型になったベガは、ちょっとキャンプに出かけるというレベルではなく、住むことを前提にした大型タイプであり、装備は満載され、最も重要視しているのが快適性だ。

バンテック キャンピングカー VEGA(ベガ)

日本全国で安心して乗れるという意味もあり、ベース車両には国産マイクロバスでリヤダブルタイヤのコースターを採用。ベース車両の限られた室内幅を打開するため、大胆なボディカットが行われキャブコンバージョンにして居住空間を拡大した。本当ならフロントフェイスごとデザインし、フルコンバージョンとしたかったところだろうが、安全基準やその加工の困難さを秤にかけると、メリットが少ないと判断したのだろう。

室内は、当時流行だったとも言えるシックなカラーの木目調。それに合わせたシート生地類でまとめあげ、天井には現代の間接照明につながる造形が施されている。この形状には配線類を見えなく通すという機能も持たされていた。

バンテック キャンピングカー VEGA(ベガ)

最後部には常設のダブルベッドが用意され、欧米モデルに匹敵する快適空間をもたらした。ベースがマイクロバスであることで、日本のあらゆる地域の道路に対応できる取り回し性の良さも持ち合わせ、予算が合えば手に入れたかったユーザー層もかなりいたはずである。

バンテック キャンピングカー VEGA(ベガ)

車両・室内サイズに余裕があり、もちろん天井高もゆったりしキッチンスペースも広大。シャワー&トイレルームの充実度も見逃せない。こういった総合的な要素の積み重ねが、住むためのモーターホームであることを可能にしている。

当時かなり注目されたモデルではあったのだが、販売的には成功とは言えなかった。なぜなら、あまりに手間がかかるので採算ベースに乗せるのが大変で、ベース車両が工場に入ってから完成までの日程がかかりすぎる。そんな理由から、現在は生産を中断している。手放す人が少なく、中古で出てくることはほとんどないのだが、万が一見つけた場合はかなりお買い得感のあるモデルのひとつと言って間違いない。

もちろんバンテックが、このサイズのモーターホーム製造を狙っていることは間違いなく、今後、何かしらのアクションはあろうかと思われる。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第31回】コンパクトでロングセラーとなったアトムシリーズの次世代モデルが登場!?


車内レイアウトのバリエーションが豊富で人気の高かったアトムがどうして現在シリーズから消えているのか? それはひとえに車両重量の問題である。いわゆる耐荷重の問題だ。2駆はまだしも4駆となるとかなり厳しい数字になり、オプション装備装着もままならない状況になっていた。そもそもこの手のモデルは4駆を選択するユーザーが多かったということもある。

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タウンエースベースの初代アトムが’00年に登場し、翌年にはヒュンダイSRXをベースにした耐荷重に余裕のあるパワフルモデルが登場。’03年にはバンク形状を大幅に変更した通称405というモデルが登場した。’07年にFRP一体成型の406、矢継ぎ早に407へと変更がされ、同年中に一番最初の写真であるバネットをベースにした新型の307が登場する。

このなかではヒュンダイSRXというリヤダブルタイヤのトラックが異彩を放っているが、それは当時バンテックが車両そのものの国内代理店として取り扱いを始めたからだ。余裕のあるベース車両、フロントエンジン、ウォークスルーモデルへの憧れもあったと思われるが、このモデルはある意味で三菱自動車のパジェロをトラックモデルに仕立て直したような感じだ。

パワーのあるディーゼルターボエンジンであり、さらにシャシーも余裕いっぱいだったので、アトムのキャンピングシェルを架装していても軽快に走行でき、ロングドライブでも疲れ知らずだったことを覚えている。

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最終型の307が登場したとき、それまでの定番的レイアウトを採用したモデルとは全くコンセプトが異なったモデルが登場。それが307Rである。これまでマルチルームを用意するのが常だったキャンピングカーの室内レイアウトを一変させた。
室内は兄貴分のジル同様のレイアウトを持たせる。すると車両容積の関係からマルチルームを省かなければ実現できない。しかしその装備はキャンピングカーとして捨てがたいというジレンマを抱える。

しかしちょうどこの時期から“トイレやシャワーはいらない”という新しいニーズを持ったユーザー層が登場してきた。
実際、現在でもトイレやシャワーのないとにかく室内が広々としているモデルは一定の人気がある。広いスペースでしっかり寝られる便利なミニバンとでも言えばいいのだろうか。

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ただしフルサイズのミニバンでも満たされない広々とした室内空間が307Rにはあった。立って歩ける室内高も重要だ。そう言ったニーズを満たすにはピッタリの全長全幅であるうえに、トイレ&シャワールームはなくしたものの伸縮するワードローブを設置した。

このワードローブのおかげで、必要とあらばポータブルトイレ設置によりトイレルームとして利用できるようになり、いわゆるキャンピングカー、旅車として使いたいユーザー層にもアピールでき、前出のジレンマも解消したのである。

伸ばした状態をトイレルームとしても、ダイネットとソファ周りをフルフラットベッド展開で利用できる点もよく考えられたレイアウトであった。

そんな307Rは’12年まで発売されたが、ベース車両がマイナーチェンジした折にラインナップから外れてしまった。しかしメーカー的にはラインナップの中でポッカリ空いてしまっているサイズであり、ユーザー的にもリーズナブルで利便性の高いクラスである。

現在、同サイズのベースシャシーであるマツダ・ボンゴトラックを使ったモデルが計画進行中のようだ。アトムの血を受け継ぐニューモデルの登場は、多くのユーザー層が待ち望んでいることでもあり、そう遠くになることはないはずだ。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第29回】より身近なキャブコンとして登場したアトム


ライトトラックをベースにしたキャブコンは日本ならではのサイズ感である。1ボックスより広々とした空間や天井高がある、それでいてリーズナブルで維持費も安いこともあり、高い人気を維持してきた。

そんななか'00年に登場したアトムは、サイズ的には三菱デリカトラックをベースにしたJB-470やトヨタライトエースベースの480に続くコンパクトなボディサイズでありながらパネル工法を採用し、量産化のメリットとコストダウンを図ったモデルとなった。

ベースはライトエース、タウンエースどちらも選べた。もちろんそのリーズナブルさを前面に出したコンセプトは広く受け入れられ、爆発的ヒットに。

あまり知られてはいない話だが、このベース車両はトヨタのキャンピングカー専用設定車種であり、確かそれが最初に導入されたモデルだったはずだ。

驚くのは量産化メリットを最大限に生かし、当初から1車種でレイアウトを8タイプ用意していたことだ。リヤエントランス、フロントエントランス、リヤ常設2段ベッドと、あらゆるユーザー層を取り込めるラインナップだったのだ。

バンテック キャンピングカー ATOM

現在の各種サイズキャブコンが、レイアウトタイプを絞っているのと比べ、いかに大量に市場に展開していったのかが分かるところでもある。しかもその後、パワフルなリヤダブルタイヤトラックのヒュンダイSRXベースまで登場し、ラインアップ拡充はとどまるところを知らなかった。

ただリーズナブルさを前面に押し出していたため、現代のキャブコンのようにフル装備、いってみればジルほどの充実した装備群は望めなかった。もちろんそこには、耐荷重重量の問題も大きかったに違いない。何しろ、ベース車両サイズに対してキャンピングシェルがちょっと大きく、バランスを考慮すると完全な納得が得られるわけではない印象があった。

バンテック キャンピングカー ATOM

アトムはその後、ベース車両を日産バネットに変更しそれまでの問題点を洗い直した。現在バンテックにはこのライトトラックベースのキャブコンが存在しないものの、どうやら準備は着々と進んでいるようなので、近々、目にすることになるはずだ。後継モデルの出来映えがかなり気になるところである。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第27回】プロトタイプとして登場するも幻になったデクスター


まず誰も知らないと思われる幻のモデル、それが「デクスター」だ。’00年にプロトタイプとして1台のみ製作され、どうやら海を渡っていて国内にも残っていない、5550×2030×2390mmというボディサイズで5名就寝を可能にし価格が295万円。今ならキャンピングトレーラーをけん引免許で引くのが当たり前の時代になったので受け入れられそうだが、当時としては難易度が非常に高いモデルだった。

欧米では自走式よりトレーラーの方が登録台数は多い。もちろんそれは価格が大きな要因なのだが、日本ではインフラ整備や文化的背景がいまだ揃っていないのが、こういった大きなサイズのキャンピングトレーラーがなかなかユーザー層にアピールしていくのに難しいところでもある。

バンテック キャンピングカー dextor(デクスター)

室内はエントランスを入った正面に常設のダブルサイズベッド、フロント側にかなり大型のダイネットという構成で、いわゆる欧州的な生活のしやすそうなレイアウト。1軸のため、走行時、とくに後進でも取り扱いはよかったのではないかと思われる。機械式慣性ブレーキを採用しているので、けん引車の設定も比較的容易だったはずだ。

想像でしかないが、バンテックはキャンピングカービルダーである条件として、キャンピングトレーラーもしっかり作っている欧州メーカーのスタイルを確立したかったのではないだろうか。

現在バンテックでは災害対策用のトレーラーを製造しているが、そちらはパネル工法で大きさは似ているが関連はない。このデクスターはFRP一体成型のボディであり、そのなかに家具類を建て付けていくと重量がかなり重くなったようだ。

バンテック キャンピングカー dextor(デクスター)

内装は当時の自走式に共通したパーツが多く、ジルの中を見ているようだが、広さという余裕度が違うのがトレーラーならでは。特にキッチンとシャワールーム周りのゆったり感は、長期滞在でストレスを感じることがほとんどないはずだ。

トレーラー引きの筆者としては、この全長とオーバーハングでは日本の環境においてフロント・リアともに最低地上高の問題がいろいろと出そうだと考えてしまうが、プロトタイプからラインナップモデルになっていればきっとそのあたりは解決したに違いない。

乗車定員がないので強度などの制約が緩いのがトレーラーの利点でもあるので、現代の軽量化製造方法を徹底的に採用しつつ、極めてシンプルで低価格、なおかつ十分なサイズのトレーラーとして存在できれば、結構人気が出るのではないかと思われる。何しろ国産であることで、日常のメンテナンスがパーツ入手も含めて相当楽になるはずだから。

現在でも国産でキャンピングトレーラーを製造しているメーカーは数社あるが、本格的に生活できるトレーラーとそのサイズとなると見当たらない。設定を煮詰めて復活したら楽しい選択肢が増えることは間違いないのだが、やはり難しいのだろうか。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com

【第25回】シンプルなボディワークで普及版として登場したレオ


ベガやジルの成功を受け、当時のフルサイズ国産キャブコンはますます多機能で充実装備を目指していく方向に動いていった。そして'00年には、ベース車両として安定感のでてきたカムロードをベースに、普及版を狙ったと思われるレオが投入された。

その当時の価格を見てみると、ジルは567万円。ライトキャブコンで格下シャシーのタウンエースベースであるJB-490が448万円。レオは473万円で、サイドオーニング、FF暖房、カセットトイレなど装備群もおごられ、コストパフォーマンスの高いモデルであった。

正直言えば、やはりキャブコン単体価格が500万円を突破していることが「高い」というイメージにつながってしまう時代であり、ある意味販売戦略的な要素が強いモデルだったのかもしれない。何しろ日本はデフレの真っ只中だったのだ。

バンテック キャンピングカー レオ

コストを抑えられたのは、一にも二にもコーチ部ボディーワークとしてそれまでバンテックがJB-500以来こだわっていたFRP成型ではなく、初めてパネル工法を採用したことが大きい。そのため見た目が普通というかいかにも普及版、デザインで頑張って価格が上がることすら回避したであろうと想像できた。

もちろんこの製造方法を採用する背景には、工期の短縮化や製造設備の簡素化が見込まれる。だからこそ世界中で採用され、リーズナブルなモデルが登場してくる手法として採用されているのだ。

バンテック キャンピングカー レオ

ボディサイズは全長5m未満に抑えられてはいるが、車幅はなんと2.08m。レイアウトは当時定番中の定番の、サイドソファのあるダイネットという構成。ジルとの違いは、左右が反転していることで、使い勝手という点では好みによるところが大きいだろう。

室内に入ると、ボディ形状や幅からくるものか、かなり広さを感じた。バンクベッドのヘッドクリアランスがたっぷりなのも、実用性で言えば相当優位。大型の清水タンクや排水タンクの装備なども含め、外観デザインよりも使い勝手を優先したことは明らかだ。

バンテック キャンピングカー レオ

バンクベッドは前部が持ち上がっていることもあって本当に広い。’02年にモデルチェンジしたときにはルーフがフロントにスラントする形状に変更され、そのイメージが若干変わった。そのほかは基本的に同じだ。さらにモデルチェンジと同時にバンクスが追加された。

このバンクスというグレードは現在発売されているモデルにも登場する名前だが、大雑把に言えば、さらに普及版を目指し、装備を簡略化したモデル。当然その分車両重量も軽くなるので、当時のノンターボディーゼルエンジンでも、軽量に作りやすいパネル工法と相まって、エンジンの非力さがストレスになることが避けられた。ちなみに当時の5Lエンジンは、排気量2985㏄、出力91馬力、トルク19.5㎏mであった。

パネル工法はその後、アトムにも採用されていくのだが、現在のキャブコンのラインナップには存在しておらず、今後ふたたび採用されるかどうかは分からない。今になってみれば、かなり思い切った模索だったのだろうと思う。そして販売期間が短かったのは、ユーザー層がバンテックらしいデザインを望んだ結果なのかもしれない。

TAMA@MAC
著者:TAMA@MAC
主に月刊オートキャンパーに執筆し、超小型キャンピングトレーラーを引っ張って、キャンピングカーの可能性を甘受する日々を送る。クルマやキャンピングカーは相当好きだが、最近はフィールドワークにドップリはまり込んでいる。 http://www.tamamac.com